平成26年7月15日、あけぼの会の7月の行事として国立劇場の第86回歌舞伎鑑賞教室に行きました。
いつもの通り高校生対象の教室で、最初に歌舞伎の見方の解説があり、そのあとに1時間半ほどの歌舞伎を見ることになっています。今回は近松門左衛門作「傾城反魂香」土佐将監閑居の場一幕を楽しみました。
この一幕の見せ場は、石の手水鉢の裏に主人公の浮世又平が書いた自画像が石を通して手水鉢の表に浮かび上がる場面でした。
謹慎中の絵の師匠土佐将監から「土佐」を名乗ることを拒絶された又平は、失意のあまり庭の手水鉢に自画像を描き残して自決し、死後土佐の名をもらうことにしました。
又平は最後の念力を込めて手水鉢に自画像を描きます。すると絵は厚い石の手水鉢を通り抜け、向こう側に抜け出るのです。又平と妻お得はこれを見て驚きます。そこへ将監が現れ、この不思議な出来事を見て、又平に「土佐光起」という名を与えます。お芝居はめでたしめでたしで終わりました。
私の席は一番前でしたので絵が手水鉢の表側に浮き出るのがよくわかりました。又平が裏で書いている絵がゆっくりとふわーとした感じで絵が浮かび上がってきます。しかしその場ではどんな仕掛けで絵が浮き出てくるのかはわかりませんでした。
家に帰ってさっそくネットで調べてみました。同じように不思議に思う人が大勢いることがわかりました。さらに調べていくうちにあるグラフィックデザインの事務所の人のブログが見つかりました。
その人は20数年前ある劇場の大道具の人から「傾城反魂香」の手水鉢の仕掛けを頼まれた話を書いていました。仕掛けは手水鉢の中に上半身を入れて内側から絵を描いていくというのです。石は石に見せかけた灰色の和紙に、アルコールを入れた墨で筆を使って書いていくわけです。おそらく又平は裏で描くしぐさだけなのでしょう。又平の合図に合わせて手水鉢の中で描いたとブログに書かれていました。
20数年前の話なので、今も同じ手法かどうかはわかりませんが、伝統を重んじる歌舞伎の世界ではあまり変わったやり方ではないと思います。おそらく今は歌舞伎の裏方が書いているのではないでしょうか。
お芝居も面白かったですが、謎が解けて胸のつかえがおりました。
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