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2017年9月21日 (木)

宮尾登美子の自伝小説を読む(NO.1056)

 平成29年8月~9月、宮尾登美子の自伝小説「櫂」「春燈」「朱夏」「仁淀川」とエッセイ「もう一つの出会い」を読みました。

 きっかけは妻から勧められた「蔵」を読んだことでした。面白かったため、私の読書癖が顔をだし、宮尾登美子の代表作を読みつくそうと考えたためです。宮尾登美子の小説は以前「序の舞」と「きのね」を読んだだけでした。

 「櫂」は太宰治賞をもらった出世作で、自分の母親の視点から描いています。

 小説なので登場人物の名前は本名ではありません。しかしWikipediaに出ている宮尾登美子の生い立ちと比べても、かなり実際の生い立ちに近いことがわかりました。

 「櫂」では「芸妓娼妓紹介業」を営む父親とその職業に悩む母親、父親が女義太夫に産ませた子供を引き取りその子供を自分の子供同然にかわいがる母親の苦労が克明に描かれています。

 その子供は小説では綾子となっていますが、綾子が宮尾登美子なのです。父親と母親は離婚、綾子が女学校を受験するため、母親は涙を呑んで綾子を父親の家に送っていくところで終わります。

 そのあとの3冊は綾子つまり宮尾登美子が主人公です。

 「春燈」は綾子が父親と父親の職業に反発しながら女学校を卒業し、家を出て農家の息子で教師の男性と結婚するまでの綾子の心の葛藤を描いています。

 「朱夏」は敗戦の前年に夫のいる満洲へ綾子が乳飲み子の娘をつれて出かけるところから始まります。満州での生活、間もなく敗戦、困窮をきわめながら日本に引き上げてくるまでの苦闘を詳細に描いています。

 行ってから帰るまでのわずか530日間ほどの記録ですが、綾子の苦しさが読む人にストレートに伝わってきます。

 先日なかにし礼氏の自伝インタビューをNHKBS放送で見ましたが、氏も満州牡丹江で6歳の時に敗戦、牡丹江から葫蘆島まで死と隣り合わせの逃避行を経験しました。父親をその途中で失っています。

 葫蘆島から九州に戻ってきたのですが、その時の体験が、のちのヒット曲の作詞に活かされたと言っていました。綾子一家もやはり葫蘆島から日本に帰ってきました。

 「仁淀川」は夫の実家の高知の農家に戻ってきてからの生活が描かれます。農家でのなじめない生活、子供の育児、母の死と父の死、自分の肺結核、そして家を出る決意などです。

 4冊を合わせると文庫本2300ページを超える大作です。これほどの大作の自伝小説を書いた作家は知りません。各ページともびっしりと文字で埋められています。会話の文章はほとんどありません。

 「もう一つの出会い」は農家の夫と離婚したあと、新しい夫と結婚してからの生活や作家として歩んでいく生活がうかがわれるエッセイでした。

 宮尾登美子という作家がどのような背景から生まれたかがよくわかりました。そして女性を主人公とした多くの名作がなぜ生まれたかもわかったような気がしました。

 これからはまだ読んでいない宮尾登美子の小説を読みたいと思っています。

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